対談
書を通じて日本の精神を伝えたい
2010年6月に、ロシアのサンクトペテルブルクにおいて個展を行うことが決定した書家・赤塚暁月氏。開催に先駆け、エルミタージュ美術館で学芸員を務めるアレクセイ・ボゴリュボフ氏との対談が実現した。
ロシアでの個展開催へ向けて
- ボゴリュボフ(以下、ボ)
- 2010年の6月に、サンクトペテルブルクで個展を開催されるとうかがいました。おめでとうございます。楽しみにしている来場者も多いと思いますが、どのような個展になりそうですか。
- 赤塚(以下、赤)
- 日本の代表として全身全霊で書き、日本人の精神性を伝えられる個展にしたいと思います。ロシアでは、これまでに2度、サンクトペテルブルクのシバロフスキパレスとモスクワのロシア国立芸術アカデミー美術館で作品を展示したことがありますが、個展は初めての開催なので私も楽しみにしております。ロシアで作品を披露するのであればロシアの文化を知る必要がありますので、今は個展に向けて集中的に勉強し制作しています。また、実際にロシアを訪れた時に自分自身が体感した印象も加え、書で表現します。
- ボ
- 個展のために書かれたという新作「雪氷」を拝見しました。
- 赤
- これはロシアという国の印象を書で表しました。海外での作品発表は80回以上あり、開催国へ向かう途中に飛行機からロシアを眺めたことが何度もあります。上空から見た、雪と氷に覆われたロシアのイメージを表しました。
- ボ
- 先生が実際に見た光景が伝わってくるようです。先生は、幼少の頃から書に親しまれてきたのでしょうか。
- 赤
- 8歳から書道を始め、これまでに多くの公募展に出展してきました。古くから書道は、手本通りに書くことが良しとされてきましたが、私はずっと疑問を感じていました。たとえば、雪という字を書こうとした時、粉雪、みぞれ、ロシアの雪、日本の雪、それぞれイメージがまったく異なりますよね。手本を真似て「雪」という字を書くだけでは、表現の幅は広がりません。それで35歳頃から、自分が感じた印象を表したいと思うようになり、自由に創作活動をしていこうと決めました。
- ボ
- 書道界に対して、お感じになっていることがあるとか。
- 赤
- 現在でも書道界では、トップの先生方が手本を書いて、それに習って書く形式ですが、変えていかなければなりません。手本通りに書いた時点で、芸術作品ではなくなります。それから、トップの先生方が賞を決定する点がだめだと思っています。私の書道の目標は、精神性を高めることだけです。
- ボ
- その思想のもとに、赤塚先生の世界ができあがっているのですね。
いちばんの願いは世界の平和
- ボ
- 一言で表すと、先生にとって書とは何ですか?
- 赤
- 私の生活そのものです。書道歴は55年になりました。私は何をしていても、書道の心で感じます。
- ボ
- 先生の日常生活のすべてが、創作活動に通じているのですね。これまでに嬉しかったエピソードがあれば教えてください。
- 赤
- まずは、今日一緒に来ている娘が生まれたことです。今でもはっきりと覚えているのですが、病院の白い壁がばら色に見えました。娘のおかげで頑張るエネルギーをたくさんもらいました。子どもを生む前から教師をしていましたが、さらに人間の命の大切さを理解したと思います。また、作品にもやさしさが出るようになったと言われます。
- ボ
- それは素晴らしいです。私にも息子がおりますから、よくわかります。
- 赤
- それから、8歳からお世話になっていた師が亡くなる時に、「弟子のなかで、あなたひとりだけが芸術家になった。そして何よりも精神性の高い書を書く」と言われたことがとても嬉しかったです。
- ボ
- 赤塚先生の活動や意志を評価されていたのですね。先生の師は、日本ではとても有名な書家だと聞きました。
- 赤
- 東京教育大学の教授であった上條信山です。戦後、毛筆書道を学校教育で復活させる必要性を訴え、実現させました。
- ボ
- 赤塚先生の書の創作活動を通じて、世の中に伝えたいことはありますか。
- 赤
- 世界が平和であること、そして、それぞれの国の文化を学び合うことの大切さを伝えたいです。私は35歳から28年間、世界平和芸術文化交流の一環で、アジア、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカ、オーストラリアの全大陸40カ国を周りました。各国でパフォーマンスをしたり、小中高校に行って生徒たちに書道を教えたりしました。海外の子どもたちが書に触れるチャンスは滅多にないようで、とても喜んでもらえました。また、ある時は私の作品がイタリアの船で世界一周したこともあります。
- ボ
- 素晴らしいご活躍です。
- 赤
- ロシアの子どもたちは、書を学ぶ機会はあるのでしょうか。
- ボ
- 残念ながら、なかなかありません。パソコンが普及したため、現代の子どもたちは書どころか手書きで文字を書くチャンスすら減ってきています。先生が個展でサンクトペテルブルクにいらした際に、子どもたちに書を教えてください。
- 赤
- 私でよければぜひ。世界中から戦争が消え、各国の文化交流が盛んになることを、いつも願っています。中国から日本に伝わってきた書道ですが、アレクセイ先生から見て、日本と中国の書に違いはありますか?
- ボ
- どちらも、宗教がもとになってできあがった芸術だと理解しています。中国の書は、紀元前5世紀の孔子、日本の書は神道、仏教がもとになり、書の発展に影響を与えました。
- 赤
- そうですね。私は大学時代は中国文学科で書を専攻し、卒業論文は孔子の教育論を書きました。先生は、書をお書きになったことはありますか?
- ボ
- 少しだけあります。書道は伝統のある芸術ですから、守るべき原則があります。私は自分なりに遊びで書いただけです。ぜひ本格的に書いてみたいのですが。
- 赤
- もしお書きいただけるのであれば、個展の際に、必要な道具はすべてお持ちいたします。
- ボ
- ありがとうございます。来年の6月にお会いできることを楽しみにしております。
実施日:2009年12月8日(火)
場所:美研インターナショナル
赤塚 暁月
1946年東京都生まれ。書歴55年。大東文化大学中国文学科書専攻卒。上條信山、筒井敬玉に師事。都立高等学校講師40年(書道・国語・日本語)。世界平和芸術文化交流親善大使28年。海外展80回出展。書道教室「ギャラリー暁月」主宰。
